店舗什器の木材選びは、開業予算と長期的な運用コストの両方を左右する重要な工程です。ヒノキとラワンでは原価が2倍以上違うこともあり、しかも樹種の選び方を誤ると、納入から3〜5年で反りや腐食といったトラブルが発生します。この記事では、大阪で店舗什器の別注製造を手がけてきた木工所の視点から、樹種ごとの特性、部位別の選定基準、塗装仕様との組み合わせによる費用削減の考え方までを整理しました。飲食店・小売店の内装を検討されている方の判断材料になれば幸いです。
店舗什器に使用される主要樹種の特性比較
ヒノキ・スギ・ラワン・ナラは店舗什器で使用頻度が高い4樹種で、耐久性・加工性・原価はそれぞれ2〜3倍の開きがあります。用途に合わない樹種選定は3〜5年での修理原因になります。
飲食店向け樹種の選び方
飲食店で使用される什器は、油分・水分・温度変化という3つの負荷が同時にかかる過酷な環境に置かれます。特にカウンターと厨房まわりは、日々の清掃で水拭き・アルコール消毒が繰り返され、樹種の耐湿性が耐用年数を大きく左右します。ヒノキは油分を含み耐水性に優れているため、カウンター天板や配膳台のように水濡れが避けられない部位で選ばれることが多い樹種です。一方、スギは軽量で加工しやすいものの、柔らかく傷が付きやすいため、客席で手が触れる部分には向きません。テーブル天板であれば、ナラ材のように硬度があり傷が目立ちにくい広葉樹が実用的な選択肢になります。専門的な観点から重要なのは、同じ「木製カウンター」でも、水濡れの頻度・温度変化の大きさ・清掃方法によって推奨樹種が変わるという点です。
小売店舗に適した樹種と加工上の工夫
小売店の陳列什器は、飲食店ほど水分・油分の負荷はかかりませんが、代わりに「美観」の要求水準が高くなります。木目の表情や色合いが商品の見え方に直結するため、樹種選定は什器の機能と店舗全体の空間デザインを両立させる作業になります。ナラは木目が力強く高級感が出やすいため、アパレルや雑貨の陳列棚で選ばれる傾向があります。ラワンは価格が抑えられ加工しやすいため、大型什器のベース材や、突板を貼って表面を仕上げる下地材として活躍します。現場で実際によく見るパターンとして、「見えるところだけ高級樹種、見えない構造部はラワン」という使い分けで、美観とコストのバランスを取る方法があります。塗装仕様と組み合わせれば、廉価樹種でも高級感を演出することは十分可能です。什器の詳細や過去の製作例については業務内容・施工事例はこちらをご覧ください。
| 樹種 | 耐湿性 | 加工性 | 原価目安 |
|---|---|---|---|
| ヒノキ | 高い | やや難 | 高 |
| スギ | 中 | 易しい | 中〜低 |
| ラワン | 低〜中 | 易しい | 低 |
| ナラ | 中〜高 | やや難 | 高 |
樹種別の耐久性と什器部位による選定の実務
カウンター・陳列棚・扉といった部位ごとに求められる耐久性基準は異なり、部位に対して不適切な樹種を選ぶと3〜5年で交換・修理が発生します。部位別の最適解を知ることが失敗回避の第一歩です。
水分・油分が多い厨房用途での樹種選定
厨房・調理場まわりの什器は、店舗内で最も過酷な環境に置かれます。水はねと熱、そして油分が日常的に付着するため、樹種選定と塗装仕様のセットで耐用年数が決まると考えて差し支えありません。ヒノキは自らの油分によって耐湿性を保つ性質があり、無塗装でも水濡れにある程度耐えられる特性を持ちます。ただし、無塗装のヒノキでも常時水がかかる環境では反りや割れが生じやすいため、実務ではウレタン塗装または浸透性の防水塗装を併用します。スギは加工しやすく原価も抑えられますが、耐湿性はヒノキに劣るため、厨房まわりで使う場合は塗装強化が前提です。プロの目で見た場合、「無垢のヒノキだけで解決しようとせず、樹種と塗装の組み合わせで最適解を作る」という判断が経済的にも合理的です。ラワンのような廉価樹種でも、防水塗装を強化することで実用レベルの耐久性を確保できるケースは少なくありません。
陳列棚・ディスプレイ什器の樹種選び
陳列棚は「見せる」ことが主機能のため、耐久性よりも美観が優先される場面が多い部位です。とはいえ、頻繁な商品入れ替えで角部に負荷がかかるため、最低限の硬度は必要になります。ナラのように木目が明瞭で色合いが安定している広葉樹は、ディスプレイ什器で長く選ばれてきた実績があります。予算の制約が厳しい場合、構造部はラワン合板・見える面はナラの突板、という2層構成にすれば、原価を抑えつつ表情のある什器を実現できます。これまで対応したお客様の中で、当初は無垢材にこだわられていた方が、突板仕様に切り替えることで予算内に収まり、かつ見た目の満足度も維持できた事例は多くあります。「無垢か突板か」は美観と予算の両立を考えるうえで最初に議論すべき論点です。
業者選びで確認すべき木材知識と仕入れルート
樹種選定の最終品質は業者の知識と仕入れルートに大きく依存します。見積書の樹種表記の詳細さ、含水率管理の有無、複数樹種を比較提案できるかどうかが優良業者を見抜く3つの指標です。
樹種の説明が詳細な業者の見分け方
店舗什器を発注する際、見積書と打ち合わせでの説明内容が業者の実力を判断する最大の材料になります。信頼できる木工所は、見積書に「樹種名」「産地」「含水率」「グレード」といった項目を明記しています。たとえば「ヒノキ 東濃産 含水率12% 上小節」のように書かれていれば、材料の素性がはっきりわかり、後々のトラブルも起きにくくなります。一方、「木材一式」「無垢材」といった簡潔すぎる記載しかない見積書は、材質の詳細が施工後に判明する構造になっており、要注意です。業界全体の傾向として、樹種の選定理由を口頭で説明できない業者は、仕入れ先が固定されていて選択肢が少ないケースが多く見られます。A社は国産材専門、B社は輸入材中心、C社は両方を扱う、といった特徴を把握したうえで比較検討することで、自店に合う業者に出会いやすくなります。お客様と接する中で感じるのは、「なぜこの樹種を選んだか」を丁寧に説明する業者ほど、納入後のトラブルが少ないという傾向です。
樹種の仕入れ先と品質管理の確認項目
木材は同じ樹種でも産地・製材時期・乾燥方法で品質が大きく変わります。国産のヒノキやスギは在庫が安定しており、含水率管理も明確な業者が多い傾向です。一方、ラワンをはじめとする外国産材は、船便のタイミングや為替の影響で価格・納期が変動します。品質管理の質を確認するには、「製材後の自然乾燥期間はどれくらいですか」「含水率はどのくらいで管理していますか」といった質問を投げかけてみるのが有効です。含水率が15%を超える材を無理に使うと、納入後に反り・割れが発生しやすくなります。複数の仕入れルートを持ち、用途に応じて樹種を提案できる業者は、選択肢の幅が広く、予算と性能のバランスも取りやすくなります。
樹種選定による予算調整と費用削減のコツ
同じ機能を持つ什器でも、樹種の選び方次第で工事費用が30〜50%変わります。全体を高級樹種で統一するか、部位ごとに使い分けるかの判断が費用削減の分かれ道です。
全体樹種統一 vs 部位別樹種の使い分け戦略
什器全体を単一の高級樹種で統一すると見た目に一体感が出ますが、その分費用は膨らみます。予算に制約がある場合、水分接触や手触りが直接影響する部位だけ高級樹種を使い、それ以外はコスト重視の樹種を選ぶという「メリハリ戦略」が有効です。たとえば飲食店のカウンターであれば、天板だけヒノキやナラの無垢材にし、脚部・幕板はラワンや集成材で仕上げるという構成が考えられます。お客様の手が触れる部分と視線が集まる部分に予算を集中させることで、全体予算を抑えつつ満足度の高い什器が実現します。現場を見てきた経験から言えるのは、部位別に樹種を使い分けたほうが、単一樹種で統一するよりも耐久性の面でも合理的だということです。負荷のかかる部位に強い樹種を、負荷の少ない部位に安価な樹種を配置することで、費用と耐久性のバランスが自然と整います。
塗装仕様との組み合わせで樹種の欠点をカバーする方法
樹種のグレードを下げても、塗装仕様を強化することで実用上の耐久性を維持できる場合があります。廉価なラワンやスギでも、ウレタン塗装や浸透性の防水塗装を丁寧に施すことで、水濡れ・油汚れへの耐性は大きく向上します。目安として、塗装費用の追加は樹種グレードを1ランク下げたときの差額よりも小さく収まるケースが多く、トータルでは費用削減につながります。ただし、塗装で耐久性を補う場合、5〜7年ごとの再塗装メンテナンスが前提になる点は事前に理解しておく必要があります。長期運用のコストも含めた比較検討が重要です。設計段階での樹種と塗装の組み合わせについては業務内容・施工事例はこちらで具体例をご覧いただけます。
| 部位 | 推奨樹種 | 耐用年数目安 | 塗装仕様 |
|---|---|---|---|
| カウンター天板 | ヒノキ・ナラ | 10〜15年 | ウレタン |
| 陳列棚 | ナラ・ラワン突板 | 7〜10年 | オイル・ラッカー |
| 厨房什器 | ヒノキ | 8〜12年 | 防水強化 |
| 扉・幕板 | ラワン・集成材 | 7〜10年 | ウレタン |
樹種選定を含むオーダー什器の発注前チェック項目
樹種決定後の契約トラブルを避けるためには、見積時に品質基準・納期・修正対応を明記することが重要です。特に樹種表記の詳細度と、変更時の対応条件は事前合意しておくべき項目です。
見積書で確認すべき樹種関連の記載内容
見積書には、樹種名だけでなく産地・グレード・製材時期・含水率が記載されていることが望ましい水準です。「無垢材」と「突板」は加工方法が根本的に異なり、費用も耐久性も変わるため、どちらで見積もられているかを必ず確認する必要があります。無垢材は木の質感が最大限に活きる反面、反りやすさや価格が課題です。突板は薄い天然木を合板に貼り付けたもので、原価を抑えつつ木目の美しさを演出できます。見積書の樹種欄が曖昧な場合、「この部位は無垢ですか、突板ですか」と明確に確認しましょう。契約後の「思っていたのと違う」というトラブルの多くは、この確認不足から生じます。
樹種変更・修正時の対応条件と期間
製作途中で樹種変更が必要になった場合の対応条件は、契約前に確認しておきたい項目です。国産材(ヒノキ・スギ)は在庫対応で1〜2週間程度、外国産材(ラワン等)は仕入れから2〜4週間程度が納期の目安になります。樹種を変更すると、製材・乾燥・加工のスケジュールも組み直しになるため、開店予定日から逆算した相談が必要です。また、納入後に樹種の不具合が発覚した場合の修正対応期間・費用負担についても、契約時に取り決めておくことが望ましいです。責任範囲を事前に明確にしておくことで、万一のトラブル時にも円滑な対応が可能になります。ご不明な点があればお問い合わせはこちらから気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 飲食店カウンターはヒノキが必須ですか
ヒノキが最適ですが、ラワンなど廉価樹種でも防水塗装を強化することで実用レベルの対応は可能です。ただし5〜7年ごとの塗装メンテナンスが前提になる点はご理解ください。
Q. 樹種で工期は変わりますか
国産材のヒノキ・スギは在庫対応で1〜2週間、外国産のラワンは仕入れに2〜4週間程度かかることが多いです。開店予定日から逆算し、樹種と納期を早めにご相談ください。
Q. 樹種を変えると塗装色も変わりますか
樹種ごとに塗装後の色味は異なります。複数樹種で色を揃えたい場合はサンプル確認が必須です。塗装で色調整することも可能ですが追加費用が発生する場合があります。
この記事を書いた理由
著者 – 有限会社笹山木工所
これまでお客様からよくいただくご相談として、納入から3〜5年で什器の反りや腐食が生じてしまったというお問い合わせがあります。多くの場合、当初の樹種選定が用途に対して十分でなかったことが原因です。事前の相談で避けられたケースが少なくありません。
設計段階で樹種選定を明確にしておけば、修理費用の発生を大きく減らせます。大阪の木工所として現場で得た知識を、店舗開業を検討されている方の判断材料にしていただければと考え、この記事をまとめました。
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